【快眠コラム】新生活のスタートを順調に切るために

2023年4月25日

神川 康子

新しい環境への順応

春から初夏にかけては、新入生も新入社員も新しい環境に慣れるために、大変な努力をしていらっしゃるのではないでしょうか。
私が地方から出て大学に入学した半世紀ほど前には、新天地に慣れたり、ホームシックを和らげたりするための期間として、5月の飛び石を繋げて大型連休として、新入時の緊張感からくるストレスや疲れを解消、充電するように設計していただいた大学の配慮に感謝したことを鮮明に覚えています。

今年の新年度はいかがでしょうか。
コロナ禍の3年間という長いトンネルも、8つの波を超えて光が見えてきましたが、すぐには眩しさに順応できず、マスク外して良いの?仲間と集って良いの?という模様眺めの新年度となっているようにも感じています。

いつもの新年度という環境の変化に加えて、コロナ禍が残した影響も大きく、生活習慣や生体リズムの再構築や修正などで苦労している子どもたちや若者も多いのではないかと心配しています。

五月病の原因と対策

昔からこのような環境の変化による心身の不調を「五月病」というような言葉で言い表していましたが、今はその原因をある程度探り、予測や予防もできるようになってきました。
学校や仕事に行きたくない、イライラする、疲れが取れない、眠れないなどの不調を想定し、予防のための準備や生活改善などの対策で、不調を最小限に抑えることもできると考えています。

生活環境が変わって、このような心身の不調を感じる原因としては、気候変動(特に気温の変化)による自律神経の乱れや、就学、就職、異動による生活スタイルの変化で、生活リズムが変わったなどの状況に対して短期間で適応しようとしてストレスや疲労を蓄積する一方で、ストレス解消や気分転換があまり得意ではない方々に表れやすい症状ではないかと思います。よく言う生真面目な方に多いようです。

人間はAIやロボットではありませんので、適応には一定の時間がかかります。
あらかじめ予測して準備期間を設けるか、なんだか調子が悪いなと不定愁訴に気づいたら自分に合った方法で、できることから対策をするとよいでしょう。

<対策例>

  • 運動する
  • 友達に悩みを話す
  • 歌を歌う、音楽を聴く
  • 好きなものを食べる
  • ぐっすり眠る

私どもが研究をしている「睡眠」も最大のストレス解消、疲労回復、心身のフル充電に有効です。
ストレスや不調のために眠れない方もいらっしゃるでしょう。それは誰にも当たり前のことで、しばらく眠れない日が続いても、やがて眠れるようになれば心配はいりません。

また、汗をかくほどのウオーキングや運動でストレスも一緒に発散するのも良いでしょう。
そうすると不調やストレスが和らいで眠れるようになるという好循環にシフトする可能性が増します。
少しずつモヤモヤが晴れて回復が実感できるようになります。気温も上がってきましたので、水分補給をしながら身体を動かしてみましょう。

子どもの五月病

子ども達にこの「五月病」のような症状が出てくるときも、対策の考え方は同じです。
連休明けに学校に行きたくなくなり、不登校へと繋がるケースも少なくありません。

実際に、2020年のコロナ禍中の5月、突然学校が一斉休業になり、6月に再開した時は中学校で腹痛、頭痛、体調不良等の不定愁訴が激増し、回復するまでに1か月以上かかったという保健室からの報告がありました。夏休み後の対策も同様です。
生活環境の変化はある程度予測できることですので、例えば小学校入学を控える年長さんには、半年前あたりの就学時検診の頃から助走するように、ご家族と一緒に睡眠・生活習慣のウオーミングアップをお薦めしています。

表1:新生活スタートまでに育みたい睡眠・生活習慣(幼児編)

もうできるよ◎、すぐできそう〇、頑張ればできそう△、まだできないよ×

現在 3か月後 6か月後 項目番号 小学校に行くまでに少しでもできるようになると、学校生活が楽しくなる項目
(一つずつで良いので、できる事が増えるといいね!)
 月 日  月 日  月 日
1 家族と「おはよう」「行ってきます」「ただいま」「おやすみ」などが言える
2 家に帰ったら手洗い、うがいをする
3 遊んだあとのおかたづけを友達や家族と一緒にできる
4 自分で着替えや、衣類をたたむことが出来る
5 園などで今日あったことを家族にお話しできる
6 夜ごはんは7時くらいまでに食べる日が多い
7 食事の時はよくかんで、落ち着いて食べる
8 食欲があり、食べ物の好き嫌いが少ない
9 寝る1時間半前くらいまでに湯船で入浴する
10 寝る前に親子やきょうだいゲンカをしたり、小言を言われたりしない
11 テレビやゲーム(スクリーンタイム)は寝る1時間前にはやめる
12 家族で話し合って決めたルール(ゲームやお手伝いなど)がある
13 寝る30分ほど前から部屋を暗くして、静かな部屋で寝る
14 寝る前に明日の楽しみなことを一つ思い浮かべる
15 夜は9時までに布団に入り、寝つきがよく、9時間以上ぐっすり寝られる
16 平日も休日もほぼ同じような時刻に機嫌よく起きられる
17 朝ごはんはしっかり食べ、排便してから園などにお出かけできる
18 小学校に行く時間の1時間前には起きられるようにする
19 はっきりとした声でお話ができたり、絵本などが読めたりする
20 活動や運動の時間に汗が出るほど体を動かしている
21 毎日お昼寝をしなくても元気に過ごせる
22 15分くらいなら、座ってお友達や先生の話を聞ける
23 日中、イライラ不機嫌ならず、お友達とケンカばかりせず過ごせる
24 笑顔やリラックスしている様子がよく見られる
25 地域の行事などに参加できている(お祭りや児童会活動など)

 

表1:チャレンジ25(幼児睡眠習慣編)


表1には、半年ほどかけて新入生になるまでに少しずつ身に付けたい生活習慣のチェックリストを示しました。
できることから焦らず時間をかけて意識して頂くと、スムースに新生活へと移行できます。
表現は子供向けですが、新入社員や大人、高齢者でも、同様の準備期間があった方が、生活の変化に適応しやすいのです。

いきなりの変化にパニックを起こすのは、ロボットではなく繊細な人間の心と身体を持っているからなのです。
大人の皆さんもご自身に合わせた表現に読み替えて、チェックリストを活用してみてください。

自分なりのルーティーンで元気時間を増やす

気が付いたらいつでも間に合いますので、睡眠・生活習慣の自分が心地よいと感じるルーティーンを持って、「元気時間」を少しずつ増やしていきましょう。

私はユーミン(松任谷由実)の「やさしさに包まれたなら」を聞きながら、朝はカーテンを開けて光を浴び、主食と乳製品などの朝食を食べて、1日をスタートするようにしています。

皆さんも、新しい環境に合った、ご自身なりのルーティーンをつくって、元気時間を増やしていきましょう。

執筆者/監修
Author

神川 康子

富山大学 名誉教授 博士(学術) 。一般社団法人日本睡眠改善協議会理事。日本眠育協議会理事。富山県公安委員会委員。富山県社会福祉協議会理事。40年以上に渡り、睡眠研究を行う。年間50回を超える講演を通して、睡眠教育の啓発に尽力。睡眠環境学入門ほか寄稿多数。