【快眠コラム】食欲の秋と睡眠

2023年10月24日

神川 康子

睡眠と食事の関係性について知ろう

「のど元過ぎれば熱さ忘れる」、体温よりも高い気温が9月まで続き、なかなか睡眠の質も確保できず、心身が疲弊した人も多いのではないでしょうか。

10月に入って過ごしやすくなり、過酷な猛暑の事も忘れつつあります。

待ちに待った食欲の秋を迎えて、おでんや鍋物、うどんやラーメンも美味しい季節になってきました。

サンマや秋茄子、焼き芋、松茸ご飯や土瓶蒸し、家計を圧迫しそうですが、今が食べごろですね。

例年は9月3日が睡眠の日なのですが、今年はこれからがやっとぐっすり眠れそうな環境になってきました。

意外に知られていないのが睡眠と食事の関係性です。

過ごしやすくなり、深い眠りを取り戻したいと願っていらっしゃる方は、食事の秋に質の良い睡眠と食事の関係についても知っていただけると、「天高く肥ゆる秋」にも太らずにグルメできそうです。

しっかり眠って、食事を楽しむ

睡眠の良し悪しが肥満に関わることはご存じでしょうか。

研究の結果、睡眠時間が5時間以下になると、8時間睡眠の人に比べて血液中の食欲亢進ホルモン(グレリン)が15%増え、食欲抑制ホルモン(レプチン)が15%以上減少し、肥満率が50%上がることがわかっています。

4時間以下の睡眠ではさらに73%も肥満率が上がってしまうのです。

しっかり眠って、満福中枢を正常に働かせ、美味しいものを味わいたいですね。

また、食事の内容とタイミングも重要です。

近年、「脳腸相関」といって、脳と腸の動きには強い関係があることがわかってきました。

腸は食べ物を消化吸収するだけではなく、自律神経などの脳の働きに影響を及ぼすホルモンをつくり、脳で分泌される様々なホルモンが腸の活動をコントロールするというように相互に関係し合って、心身の健康を支えています。

私たちの身体にはたくさんの体内時計が

私たちの身体にはたくさんの体内時計があります。

朝目覚めてカーテンを開け、光の刺激で親時計である脳の視交叉上核が活動を開始するとともに朝食をとることで、消化器系のリズムも動き出し、全身が活動モードに入り、順調な一日のスタートとなります。

そして、朝の光が15時間後くらいに睡眠物質(メラトニン)を分泌せよというふうに、眠りのタイマーをセットすることにもなります。

朝ごはんにはエネルギーになるものを

私の長年の調査研究でも、寝起きの良さがその日の生活の質やパフォーマンスの良さに繋がることがわかっています。

朝食は抜かないで、一日の活動のエネルギー源になるものを食べましょう。

朝に何を食べるかによっても、夜の睡眠の質の向上に繋がります。

例えば、大豆製品や卵、ナッツ類、ご飯、バナナなどにはトリプトファン(必須アミノ酸)が含まれます。

これに赤身肉やマグロ、生にんにく、唐辛子などに含まれるビタミンB6と日光があれば、精神を安定させるセロトニン(神経伝達物質)に変化し、夜には眠りを誘う前述のメラトニンホルモンに変化するのです。

よく噛んで生活の質アップ

朝食欠食は、脳と消化器系のリズムの歯車の連動を乱し、日中のパフォーマンスも夜の睡眠の質も低下させる恐れがあります。

また、朝食からよく噛んで食べることで脳の覚醒度も上がります。

そこから、記憶力や学習意欲にも影響するアセチルコリンや脳の血流量も増加し、生活の質や運動能力も向上します。

すると、短期記憶をつかさどる海馬に神経新生が起こり、記憶力向上や、アルツハイマーのリスクをも低下する可能性が増すことがわかっています。

大昔は1日の食事でに3000回以上噛んでいましたが、現代人は600回くらいしか噛まないそうです。

眠りも食事も脳や身体の大切な栄養源

食欲の秋の様々な食材をよく噛んで五感で味わいながら、夜には快適な睡眠を取り戻したい。

そして、猛暑やコロナ禍での運動不足や乱れた生体リズムを整え、家族間や職場、学校でのコミュニケーションや様々なイベントを再開し、心身共に元気に復活したいものです。

眠りも食事も脳や身体の大切な栄養源です。

執筆者/監修
Author

神川 康子

富山大学 名誉教授 博士(学術) 。一般社団法人日本睡眠改善協議会理事。日本眠育協議会理事。富山県公安委員会委員。富山県社会福祉協議会理事。40年以上に渡り、睡眠研究を行う。年間50回を超える講演を通して、睡眠教育の啓発に尽力。睡眠環境学入門ほか寄稿多数。