中学生の睡眠への疑問と答えPart1~気持ちよく夏休み明けを迎えるために~

2025年7月30日

神川 康子

イントロダクション

エムール睡眠・生活研究所の所長で富山大学名誉教授の神川と申します。

いよいよ、ほとんどの学校は夏休みに入りましたね。
猛暑が続く夏休みですが、児童・生徒の皆さんや、ご家族には元気に過ごして頂き、心身共に健やかな9月を迎えて頂きたいと願っています。

7月の初めにある中学校の1年生160名を対象に「夏休みの睡眠・生活習慣の心得」について講演し、最後に質問タイムを設けたところ、あまりに多くの生徒さんが手を挙げて下さったので、後日すべてに回答することにしました。

全員の感想文集の中には30の質問があり、とても良い質問や、家族への想いなどに感動しましたので、ぜひ夏休みにご家庭で共有してほしいと思い、すぐに回答しました。
一部抜粋をQ&Aとして、コラムに書かせていただきますが、1回では書ききれないので、8月のコラムにも続きます。

楽しい夏休みの合間でも結構です。未来のためにぜひご家族いっしょにご覧ください。


 

1.睡眠環境に関する質問

Q1:きょうだいで部屋を共有しているが、兄が勉強していると光が漏れてまぶしいけれど明るくても寝る工夫はありますか?
A:睡眠中には明るくない方が良いので、アイマスクを使うと良いでしょう。最近は肌触りの良く違和感のないものが出ています。

Q2:寝れてはいるのですが、音だけが耳に入ってきて寝た感じがないのです。
A:寝ているときに騒音があると鼓膜が振動し続けるので、睡眠が浅くなり寝た感じがしないと思います。周囲の音や音楽などを止められれば良いのですが、それが難しい時は、耳栓などを使用してください。

Q3:どのような匂いのアロマが睡眠改善につながりますか。
A:ラベンダー、カモミール、スイートオレンジ、サンダルウッド、クラリセージなどは鎮静作用があり眠りやすくなりますが、ジャスミン、ペパーミント、ローズマリー、ユーカリなどの香りは覚醒作用があるので、朝目覚める時に良いでしょう。香りには好みもあるので、好きな香りを見つけるのも楽しいかもしれません。


 

2.就寝前の行動に関する質問

Q4:寝る前に食べたり、飲んだりした方が良いものは?
A:夕食で食べたものが消化してから寝るためには、食事から2~3時間空けた方が良いのですが、どうしても小腹がすいたときは、消化の良いヨーグルトや牛乳などの乳製品を摂る程度は良いでしょう。就寝前にはコップ1杯の水か白湯を飲むと寝つきにも脱水予防にも良いでしょう。

Q5:自分はカフェインをとるので睡眠とカフェインの関係を知りたい
A:カフェインには覚醒効果があるので、就寝前には摂らない方が眠りが深くなりやすいです。個人差がありますが、未成年や高齢者はカフェインの覚醒効果が大きな影響を及ぼすので、夕方以降はコーヒーや紅茶、コーラや濃い緑茶、カフェイン入りの栄養ドリンクなどは控えた方が良いでしょう。麦茶やそば茶、白湯はカフェインを含みません。

Q6:家では夏になると湯船につからないのですが、他に睡眠の質を上げる方法はありますか。
A:睡眠の質を上げる方法は沢山あります。基本は毎日の規則正しい起床、就寝、食事、運動、学習活動、仕事などですが、さらに下記の睡眠改善行動15項目も参考にしてください。

睡眠改善行動15項目

Q7:寝る前のゲームが良くない理由は光を浴びてしまうことによるものなのか、ボードゲームのようなアナログなゲームでもよくないのか。
A:まだまだ成長・発達している皆さんが就寝前直前までスマホやタブレットなどの光を注視すると、視神経の奥の体内時計を司るところ(視交叉上核)が朝だと勘違いして、脳が働き始め、眠れなくなったり、寝てもすぐに目が覚めたりします。光らないボードゲームやトランプなどのアナログゲームは良いと思いますが、ゲームの勝ち負けで興奮しすぎても眠りに影響するので、就寝1時間前は穏やかな気持ちで紙の本を読んだり、静かな音楽を聴くなどした方が良いでしょう。家族との楽しい気分の会話もスムースな眠りには効果的です。優しく「おやすみなさい」を言いましょう。

Q8:ベッドに入ってから1時間ほど考え事をしてしまいます。どうしたらよいですか。
A:寝床でつい考え事をしてしまいがちですが、ベッドに入ったら、できるだけ考え事をしないように、寝る前に机でメモ用紙に反省することや不安なことなどを書いてから、ベッドに入って、それからは反省ではなく、リラックスしてゆっくり呼吸をしながら、楽しみなことや未来のことなどを空想するようにすると寝つきやすいです。ネガティブなことはベッドに入る前でやめて、ベッドに入ったらポジティブに行きましょう。


 

3.睡眠のメカニズムに関する質問

Q9:成長ホルモンが寝て2~3時間の間に出るのなら、そのあと起きてまた2~3時間寝ることを繰り返したら成長ホルモンが出るのですか。
A:寝る、起きるを繰り返しても成長ホルモンが出続けるわけではありません。
睡眠の前半に深い眠りになると出やすいのですが、そのあと起きて再度寝た場合には、金縛りになりやすくなったり、夢が多くなる睡眠に移行していくことが多いです。
理想的には8時間以上の睡眠を継続すると、深い眠り(ノンレム睡眠)も夢を見る眠り(レム睡眠)もバランスよく出ることになります。どちらも大切な睡眠です。

Q10:最近正夢を見るのですが、脳がどのような状態なのですか。
A:夢の役割については、まだ分かっていないことも多いのですが、レム睡眠中には起きているときとは異なる脳の部位が活発化して、視覚的な夢や感情的な夢を見ることが多いのですが、それはこれまでの体験や気にしていること、恐れていることなどが、理性的な判断を超えてバラバラに出現するので、時には試験や試合、友達や恋愛などについて気にしていると、今後をシミュレーションしているように現れて、時にはその通りになったりすることもあり、正夢のように感じるのでしょう。悪い夢は、起きてからの現実で気を付けることを教えてくれたと思えばよいでしょう。

Q11:睡眠と食欲は関係がありますか。
A:関係はあります。睡眠不足を続けていると血液中のグレリンという物質が増えて、満福中枢が壊れたような状況になるので、食べ過ぎてしまう傾向があり、結果肥満になりやすいです。睡眠が足りていると、血液中のレプチンという物質が増えて、食欲を丁度良くなるように調節してくれるので、肥満を防ぐことにもなります。

Q12:3日前に無意識に1時に起きていて怖いなぁと思いました。どうしたらよいですか。
A:たぶん寝ぼけたんだと思います。小学生くらいまではよくあることで、成長とともにだんだんそのような行動は無くなっていくのですが、無意識に動いていたりすると転んだり階段から落ちたりするような心配もあるので、家族に寝ぼけることがあるようだと話して、安全確認してもらった方が良いですね。部屋から出たりするようなことがなければ大丈夫です。部屋の中は躓かない様に片付けておきましょう。


 

4.日中の生活行動に関する質問

Q13:一日にどれだけ運動をすれば一番良い睡眠がとれますか。
A:運動不足でも睡眠の質は下がりますが、激しい運動をして疲れすぎても睡眠の質は下がります。最近はスマホなどで、一日の歩数なども計測できますが、できれば6000歩以上、理想的には8000歩以上歩くと睡眠が良くなるという報告もあります。
今は猛暑を避けつつ朝夕30分程度汗をかく運動をすると良いでしょう。

Q14:寝る前に牛乳を飲むと寝つきが良くなるというのは本当ですか。
A:牛乳には、リラックスしやすいセロトニンや眠気を促進するメラトニンの材料になるトリプトファンという必須アミノ酸が少量ですが含まれています。また神経の興奮を抑えるカルシウムも含まれているので、寝る30分~1時間前にホットミルクなどを飲むと良いでしょう。カフェインを含む飲み物より、寝つきには良いでしょう。

Q15:日中にすれば睡眠の質が向上するルーティーン等があれば教えてもらえないでしょうか。
A:基本的なルーティーンをお知らせします。毎日決まった時刻に起きて、自分でカーテンを開ける。朝ごはんはしっかり食べる。外出時に歩くなどして光を浴びる。日中は授業や運動時に集中力があるか自分で確認する。友達や先生、家族ともできるだけ楽しくおしゃべり。1日に6000歩以上は動く。夕方に居眠りしない。夜に明るい光を浴びない。やることの優先順位を決めて、就寝前は早めに入浴して穏やかに過ごすなどです。

5.家族の睡眠に関する質問

Q16:父が最近体調不良で、睡眠不足のせいではないかと考えています。父はショートスリーパーと言い張っていますが睡眠時に呼吸が止まることがあったり、夜中に起きていることがあります。父の体調不良は睡眠不足と無呼吸のどちらが原因でしょうか。
A:お父さんのことを心配するのはとても優しいですね。お父さんの体調不良は、どちらも原因になっていると思われますので、病院で診察を受けられることをお勧めします。本当のショートスリーパーの方は数百人に一人くらいですが、数時間の睡眠でも元気で昼間も眠くならないはずです。体調不良であれば、睡眠に問題があるか、別の病気で睡眠に影響しているかもしれませんので、ぜひ受診をお勧めします。


 

6.講演後のご感想

最後に、講演にご参加いただきました方からの感想を一部ご紹介します。

「今日は人生においてとても大切なことを教えていただき、有難うございました。私は9時間ほど寝ているのですが、たまに寝ている時間がもったいないと思うことがありました。でも今回の講演で睡眠は身体の調子を整えたり、記憶を定着させたりする大切な時間なんだと思いました。私はあまり寝つきが良くなかったので、寝る直前にはメディアを使わないようにしたいです。また、母の睡眠時間が少ないと思うので、家事を手伝って少しでも長く寝るようにしてほしいと思いました。」

残りのQ&Aはまた8月のコラムでご紹介します。
皆さんの健康や学力、運動能力の向上、そしてご家族のコミュニケーションや笑顔が増えるよう、睡眠の話がお役に立てれば、嬉しいです。
どうぞ元気な夏休みを過ごしてください。
 


 

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今日から実践できる睡眠改善方法

睡眠教育を実施してみようという教育者の方、保護者の皆様、企業内の人事や健康管理を担当されている方、ぜひ下記のURLから「睡眠を改善する生活習慣15項目」に答えてみて参考にしてください。
昨年までの睡眠研究で、この15項目から3つを選んで2週間チャレンジして下さると、61%の方で睡眠が改善したという結果になりました。残りの39%に入りそうな方はもうあと2項目を加えてみて下さい。

 

睡眠の質を改善するための生活習慣改善の取り組みアンケート

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家族や職場で睡眠を改善したい方のために「すいみん・かるた」(dreams come true=良い眠りは人生の夢を実現する)を作成しました。お子様との学びの場でぜひご活用ください。大人にとっても学びのある内容になっています。

 

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いずれもリンクフリーです。ぜひ睡眠教育の実践にお役立ていただければと存じます。

エムール体験ショールームについて

マットレスやベッド、高座椅子・リクライニングチェア等の製品を体験できるインテリアショールームです。予約制で最大1時間、専門スタッフがお客様の心地よい体験をサポートしてくれます。

立川店にはトップアスリートが練習帰りに立ち寄られ、2024年にオープンした南青山店にはタレントの方もお越しになるそうです。最近では、私のいる富山県と東京都を繋ぐ北陸新幹線とコラボした椅子が体験できると、若い世代の方も訪れるきっかけになったようです。休息姿勢は年を追うごとに痛みや健康課題が大きくなっていきますので、若い世代が姿勢に注目することはとても良いことだと思います。「売らないショールーム」ということで寝る、座るの姿勢と体験を重視した運営をしていますので、皆さんも一度訪れてみてはいかがでしょうか。


 

エムール体験ショールームの詳細

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執筆者/監修
Author

神川 康子

富山大学 名誉教授 博士(学術) 。一般社団法人日本睡眠改善協議会理事。日本眠育協議会理事。富山県公安委員会委員。富山県社会福祉協議会理事。40年以上に渡り、睡眠研究を行う。年間50回を超える講演を通して、睡眠教育の啓発に尽力。睡眠環境学入門ほか寄稿多数。