高齢者の寝室作り│注意点・間取り・快適で安全な部屋にするコツ

2023年5月22日

エムール睡眠・生活研究所

高齢者の寝室作りは、いかに不安要素を排除できるかがカギ。転倒のリスクを軽減できる部屋・寝具選びや、生活動線の工夫が求められます。

今回は高齢者の寝室作りで意識したい注意点とポイントを始め、寝室に適した間取りと部屋タイプ、寝室に取り入れたいバリアフリーを紹介します。

高齢者の寝室作りで意識したいこと

高齢者の部屋作りで特に意識したいのは「段差」と「生活動線」の2つ。高齢者の事故として多い転倒の原因をなるべく排除することが大切です。

年を重ねると筋力や体のバランス感覚などが衰え、1~3センチ程度のちょっとした段差でもつまずきやすくなります。転倒した際に骨折してしまうと、そのまま歩行能力が落ちて要介護状態になることも。

また寝室からトイレ、廊下から寝室といった生活動線上に障害物があったり、移動の距離が長かったりすると、転倒のリスクが高まります。

以上のことを踏まえ、高齢者の寝室作りをする際は安全の確保を第一に考えていきましょう。

高齢者の寝室に適した間取り・部屋タイプ

高齢者の寝室作りをする際は、寝具や家具といった内装だけではなく、そもそもの間取りや部屋のタイプにも配慮が必要です。

高齢者の寝室に適した間取り・部屋のタイプを「家族と同居」「一人暮らし」そして、同居する場合にも一人暮らしの場合にも「共通」するタイプの3パターンに分けて紹介します。

家族と同居│1階に寝室を設ける

家族と同居の場合、高齢者の寝室は2階ではなく1階に設けるのが理想です。寝室からリビング、玄関へ移動する際に階段を通らずに済むので、足腰への負担や転倒リスクを軽減できます。

ただ、キッチンやお風呂、リビングなどの生活音が気になる恐れがあるので、配置や家族の生活リズムも考慮した上で決めましょう。

一人暮らし│1DK・1LDKが生活しやすい

賃貸住宅で一人暮らしをする場合は、居室と寝室を兼ねた1DK1LDKの間取りだと生活しやすいでしょう。

一部屋の分、寝室とトイレ、お風呂、玄関との移動距離が短く済みます。転倒リスクを軽減できる他に、掃除がしやすく使いやすい点も魅力です。

また、1Kや1Rと違ってキッチンが独立しているので、部屋を広く使える点も魅力です。

共通│トイレに近い部屋を寝室にする

家族と同居、一人暮らしを問わず、複数の部屋がある住宅に住む場合は、トイレに近い部屋が高齢者の寝室に適しています。

その理由は、年を重ねると夜間にトイレへ行く回数が増えるためです。寝室とトイレが離れていると、移動中につまずいて転倒するリスクが高まります。寝室とトイレの動線を確保し、夜間の安全を確保しましょう。

共通│寝室は和室より洋室が適している

和室には基本的に布団を敷きますが、立ち座りの動作は体に負担がかかりやすく、筋力が落ちると立ち上がれないことも。

和室にベッドを置くことは可能ですが、重さで畳がへこみ、自然と段差ができてしまいます。また小上がりの和室の場合は部屋の入り口に段差があるので、つまずくリスクがあります。

これらを踏まえると、高齢者の寝室には和室よりも洋室が適しているでしょう。

高齢者の寝室作りのポイント

高齢者の寝室は、安全性快適性を意識することが大切です。安全で使いやすい部屋を作る4つのコツを紹介します。

布団ではなくベッドを使用する

手前の章で「高齢者の寝室は和室ではなく洋室が適している」と紹介しました。それに加えて、寝具は布団よりもベッドがおすすめです。

布団は床からの距離が近いので、筋力が低下していると立ち上がる動作が難しいことがあるためです。足が滑って転倒するリスクもありますし、上げ下ろしの際にも体に負担がかかります。

それに対し、ベッドは腰かけた状態から立ち上がれるので、布団よりも踏ん張りがききます。

ただ、ベッドは転落に注意が必要です。両サイドに転落防止の柵を取り付けたり、もともとフレームがあるものを選んだりと、あらかじめ対策をしておくと安心です。

ベッドは折りたたみタイプを選ぶ

ベッドには複数の種類がありますが、その中で高齢者の寝室におすすめなのは折りたたみタイプ。使わないときはコンパクトに収納できる上、キャスター付きが多く簡単に移動できます。自分で掃除ができる、介護までいかない高齢者の方にもおすすめです。

また、製品によっては組み立て不要で、到着次第すぐに使用できるものも。リクライニング機能が付いているものであれば、就寝・読書・テレビ鑑賞など、シーンに合わせて好きな角度に調節できます。


立ち座りしやすい椅子を置く

高齢になると居室と寝室を兼ねる場合も多いでしょう。日中にくつろぐ時間も寝室で過ごす場合は、立ち座りしやすい椅子があると便利です。

おすすめは、立ち座りのしやすさを考えて座面が高く設計された高座椅子です。肘掛け付きが多く、体を支えながら立ち座りの動作ができます。座面の高さ調整やリクライニング機能、オットマン付きなど種類は豊富で、生活スタイルや好みに合わせて選べます。

ベッドでも座って過ごせますが、そのまま横になれる点に注意が必要です。日中にうたた寝してしまうと夜間の中途覚醒や早朝覚醒の増加につながります。

高座椅子のような高齢者向けの椅子があると、日中にベッドで過ごす時間が減り、夜間睡眠へ与えるマイナスの影響を緩和できる可能性が高まります。

また、ベッド上で横になっている時間が長いと筋力が低下する恐れも。筋力低下に低栄養や疾病なども加わると、虚弱状態を表すフレイルになってしまう危険性があります。

そういった面から考えても、ベッド以外で過ごせる高座椅子があると便利です。立ち座りの動作を繰り返したり、移動の回数が増えたりすることで、自然と運動ができるでしょう。


照明は明るくする

人は年齢を重ねるごとに視力が落ちやすく、必要な照度も変わってくるので、部屋作りの際は照明にも着目しましょう。

照明の明るさは「ルクス」という単位で表されます。40代だと400ルクスだった必要照度は、60代で600ルクス、70代で700ルクス、80代になると800ルクスと、年齢とともに上昇すると言われています。

年齢に合わせて部屋のメイン照明を明るいものにしたり、読書をするときは手元を照らすスタンドライトを併用したりと、視界を明るくすることを意識すると生活しやすくなるでしょう。

その他、トイレへつながる廊下の照明にも注意が必要です。高齢者は暗闇に目が慣れるまで時間がかかりやすいため、廊下の照明も明るいものに変えるか、足元を照らすフットライトを設置し、夜間でも明るくして転倒対策を講じることが大切です。

高齢者の寝室に取り入れたいバリアフリー

バリアフリーとは「生活しやすくするために障壁(バリア)を取り除く(フリー)」という意味。

今現在は介護が必要でなくても、将来を考えると寝室をバリアフリー化しておくと安心です。高齢者の寝室作りに取り入れたい3つの方法を紹介します。

手すりを設置する

ベッドの周辺や出入り口までの壁に手すりを設置すると、つかまりながら移動できるので転倒のリスクを軽減できます。夜間の移動時のことも考えて、寝室からトイレまでの動線上にも設置しておきたいところです。

手すりは太さや材質、デザインなど種類は豊富。また、使用する人に合う高さにする必要がありますので、リフォーム会社に依頼する際は事前の打ち合わせを入念にしておきましょう。

ドアを引き戸に変更する

年を重ねると歩行や動作のスピードが遅くなるため、開き戸だと体が挟まれてしまうことがあります。また、筋力が低下しているとドアの開閉時にバランスを崩したりドアの重さが負担に感じたりすることも。

一方、引き戸であれば出入り口の幅が広いため、安心して移動できます。ドアを横にスライドするだけで済むので、車椅子に乗る場合も引き戸の方が開閉は簡単です。

リフォーム工事が必要になりますが、バリアフリー化を目指すのであれば、引き戸への変更を検討してみてはいかがでしょうか。

高齢者の部屋作りは安全と快適性を意識しよう

居室を兼ねることも多い寝室は、高齢者の方にとって大切な場所。安全に、そして快適に過ごせるように、段差や生活動線を意識した寝室作りをしたいですね。

リフォームが難しい場合も、和室から洋室、布団からベッドに変更するだけでも過ごしやすくなるでしょう。今回紹介した内容を基に、部屋や寝具・家具、照明などを見直してみてはいかがでしょうか。

執筆者/監修
Author

エムール睡眠・生活研究所

  • 【所長・主席研究員】神川 康子 富山大学 名誉教授 博士(学術)一般社団法人日本睡眠改善協議会理事。日本眠育協議会理事。富山県公安委員会委員。富山県社会福祉協議会理事。
  • 【所属有資格者】 日本睡眠改善協議会認定 上級睡眠改善インストラクター 1名/睡眠改善インストラクター 6名 日本睡眠教育機構認定 睡眠健康指導士上級 2名/睡眠健康指導士 11名
  • 【活動内容】 「続けられる具体的な睡眠改善」をテーマに、専門的な見地からのデータ収集と分析及びソリューション開発を目的として設立。 寝具や寝室環境に関する調査研究や睡眠教育など広く社会に役立つ研究開発と知識啓発を行っている。 詳細はこちら https://nemuri-kurashi.jp/activities/