専門家に聞く”睡眠と姿勢~寝姿勢・座り姿勢~”【快眠コラム】
2025年5月28日
神川 康子

目次
一日の半分以上は寝ているか座っている
エムール睡眠・生活研究所の所長で富山大学名誉教授の神川と申します。
日本人は世界一(OECD諸国の中で)睡眠時間が短いとよく言われていますが、座る時間に関しては世界一長いそうです。平均睡眠時間の「7時間22分」に学校や仕事等で座る時間「5時間前後」を加えると、1日の半分以上を寝るか座るかをしていることが分かります。つまり、この時の姿勢が健康にも大きな影響を及ぼすことは容易に理解できることです。
時代と共に姿勢は悪化している
2002年に小・中・高校生の学校での生活実態について調査した際に、子供の育ちの課題を整理するために過去(1978年)の「子どものからだ調査」を確認したところ、気になる点として幼児から高校生まで「背中がぐにゃっとしている」「背筋がおかしい」の姿勢についての問題が上位に挙がっており、さらに学年が上がるほど「朝礼で倒れる」「腰痛・肩こり」が増え、その後の2000年調査では「すぐに疲れる」「アレルギー」「首こり」「不登校」が加わってきました。
今から思うと、改善しているとは言えず、なぜ対策してこなかったのか、できなかったのか、当時の子どもたちは、今や中高年となり、さらにデスクワークが増え、PCやスマホ、タブレット、ゲーム等の時間も増えてきて、現代では全世代にわたって、家族みんなが腰痛、肩こり、首こり、猫背、巻き肩等々の自覚や指摘をされている時代になっているように思います。
睡眠・生活習慣が及ぼす姿勢への影響
当時のデータを見直してみると、睡眠・生活習慣に問題があるほど、「姿勢が悪い」「肩こり・腰痛」「転びやすく骨折しやすい」などの問題があることが判明しており、今から思えば将来のフレイル※予防のためにも幼少期からの健康指導や睡眠・生活習慣づくりをもっと強調してくれば良かったと、振り返っています。
※フレイルとは
“加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態”
出典:厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業) 総括研究報告書 後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究
睡眠不足が姿勢にも影響
実際に睡眠・生活習慣と姿勢や体幹の強さについて、重心動揺として調べたことがあります。結果はやはり睡眠時間が不足している子どもほど身体の重心のブレ(ふらつき)が大きく、姿勢が悪いことも明らかでした。
ある時、高校に訪問授業に行って、最初の「起立、礼!」の号令ですぐに立ち上がれず、ふらついている女子生徒に「昨日あまり寝てないんじゃない?」と聞いたら、「どうじて分るんですか?」と、占い師を見るような目で見られたことがありました。しっかり立っていられない児童・生徒はほぼ睡眠不足でした。たぶん大人も同様だと思います。
寝る姿勢と座る姿勢の点検を
最近では、学校現場でも、都会の電車の中ではもっと高齢者顔負けの猫背で、首が前傾している若者をけっこう見かけます。本当は、モデルのように颯爽と歩きたいと思っているのかもしれませんが、寝不足、疲労・ストレス蓄積状態ではまっすぐに立っていられないし、歩くのも大変、座っていてもずり落ちそうな姿勢です。
文明の進化の中で二足歩行になった人類が、さらに便利な環境の中で座る時間も増えてきて、ちゃんと座れない、真っすぐに歩けなくなると、もしかすると、またゴリラ姿勢の歩き方に戻っていくかもしれませんね。それは冗談としても、私たちは今や24時間のうち、7~8時間は横たわって眠り、勉強や仕事、通勤などでも5~7時間以上座っているという方々も多くなっているとしたら、この「寝る姿勢」と「座る姿勢」を今一度チェックする機会があっても良いでしょう。
椅子の重要性と進化
椅子で思い出すのは、私が小学生の昭和30年代、小学校の椅子は木製の直角背もたれの椅子で、私自身今からは考えられないほど痩せていたので、背骨の皮膚が黒っぽくなっているのを骨の病気かと親が疑い、病院に連れていかれて「固い椅子の背との摩擦です」と言われました。あれから60年近く経ちますが、学校の椅子の形状はそんなに変わっていないような気もします。
航空機や列車、長距離バス、車のシート、社長やゲーマーの椅子等々はどんどん快適になってきているのに、成長期の子どもが座る椅子はどうあれば快適に毎日集中して勉強や作業ができるのでしょうか?今のところそんな研究には出会ってはいません。やはり商品開発は、経済力があり、自分で選択できる世代の商品ということになるのでしょうか。
休息のための椅子探し
私たちエムール睡眠・生活研究所を運営するエムールは、適切な休息姿勢をサポートする寝具家具(マットレスや枕、椅子など)の開発を行っています。東京の立川市と南青山にある体験型のショールームには、身体の痛みを抱えた方々が相談に訪れます。ショールームのオープン当初は70~90代の高齢者と子ども世代にあたる40~60代が中心でしたが、近年では20~30代の来場者も増えています。生活習慣の変化が姿勢の変化を引き起こしている背景にも繋がるかもしれません。
健康のための家具
来場背景を伺うと、床からの立ち座りが大変になってきただったり、腰痛や脊柱管狭窄症を抱えていたりと、身体的な痛みを抱えている方も多いようです。私の周囲でも腰痛や脊柱管狭窄で手術を受けられる方が複数あり、一層、座っているときの姿勢が気になっています。
また、40~60代の来場者は、ご自身はお元気でいらっしゃるものの、ご高齢の親御さんのために始まった椅子探しから、自分たちの椅子も欲しくなった…という方も少なくないそうです。例えば、結婚当初にデザイン重視で購入したソファを長い間我慢して使ってきたけれども、いよいよ自分の身体に合った椅子を探そうという方もいらっしゃいます。確かに、ソファの奥行や座面高が、日本人の長時間にわたる座り姿勢に適しているかというと、人間工学の観点では否と言えます。
フレイル予防のための寝具や座具
人生、3分の2は寝ているか座っているかだとしたら、しっかり眠れて、長く座っていても疲れない、ついでに立っている姿勢もサポートしたり、むしろ疲労回復(リカバリー)でき、未来のフレイルを予防できる寝具や座具を真剣に選びたいと思うこの頃です。しっかり眠れて、楽に座っていられる時間が確保できると、美しい姿勢で立って歩くことにもつながるのではないでしょうか。
エムール体験ショールームについて
マットレスやベッド、高座椅子・リクライニングチェア等の製品を体験できるインテリアショールームです。予約制で最大1時間、専門スタッフがお客様の心地よい体験をサポートしてくれます。
立川店にはトップアスリートが練習帰りに立ち寄られ、2024年にオープンした南青山店にはタレントの方もお越しになるそうです。最近では、私のいる富山県と東京都を繋ぐ北陸新幹線とコラボした椅子が体験できると、若い世代の方も訪れるきっかけになったようです。休息姿勢は年を追うごとに痛みや健康課題が大きくなっていきますので、若い世代が姿勢に注目することはとても良いことだと思います。「売らないショールーム」ということで寝る、座るの姿勢と体験を重視した運営をしていますので、皆さんも一度訪れてみてはいかがでしょうか。
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今日から実践できる睡眠改善方法
睡眠教育を実施してみようという教育者の方、保護者の皆様、企業内の人事や健康管理を担当されている方、ぜひ下記のURLから「睡眠を改善する生活習慣15項目」に答えてみて参考にしてください。
昨年までの睡眠研究で、この15項目から3つを選んで2週間チャレンジして下さると、61%の方で睡眠が改善したという結果になりました。残りの39%に入りそうな方はもうあと2項目を加えてみて下さい。
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すいみん・かるた
家族や職場で睡眠を改善したい方のために「すいみん・かるた」(dreams come true=良い眠りは人生の夢を実現する)を作成しました。お子様との学びの場でぜひご活用ください。大人にとっても学びのある内容になっています。
睡眠環境と習慣を学びたい方におすすめ
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いずれもリンクフリーです。ぜひ睡眠教育の実践にお役立ていただければと存じます。