専門家に聞く”睡眠とヒューマンエラー”【快眠コラム】

2025年6月26日

神川 康子

命に係わるヒューマンエラー

エムール睡眠・生活研究所の所長で富山大学名誉教授の神川と申します。

最近、ニュースでもよく報道される「アクセルとブレーキの踏み間違い」、「居眠り運転で対向車線にはみ出し」、「高速道路の逆走」等々、ヒューマンエラーによる交通事故が気になり、毎日運転する私も恐怖を感じます。人の命に係わる重大事故や事件は、「人間はミスを犯すものだ」という悠長なことでは片付けられません。

命に係わるヒューマンエラーは何としても防ぐ工夫を、個人の集中力や判断力をアップすることと、安全装置などの技術開発によって実践していかなければなりません。まして「飲酒運転」などは犯罪であり、もはやうっかりミスでは済まされません。


 

富山県の公安委員をしていた時に、交通死亡事故や重大な交通違反などについての説明を受けることが委員会のたびにありました。私自身も車無しでは仕事が成立しない生活の中で、一律に「高齢者は免許返納しなさい」と言われないように認知機能を維持し、集中力を切らさないように努力はしているつもりです。

世の中から少しでも居眠り運転や、飲酒運転、ヒューマンエラーや感情的な犯罪、ストーカー等の事件を減らすために、講演の際には、人間の脳の機能低下要因について科学的に理解してもらうために、脳機能の低下を防ぐ予防対策について話します。

日常生活と脳科学

先日、「睡眠負債」でユーキャン流行語大賞(2017年)を受賞された脳科学者の枝川義邦先生を富山県家庭科教育振興会50周年記念式典にお招きし、記念講演で「日常生活を脳科学の視点で読み解く」というお話をして頂きました。まさに内容はヒューマンエラーに関するものでした。

ヒューマンエラーは脳の情報処理能力の低下により起こりやすく、脳のワーキングメモリ(作業記憶:情報を保持し処理する機能)が低下すると、忘れたり、勘違いしたり、重大なミスをしたりということになるそうです。

この原因や要因と考えられるのが、脳機能低下につながる睡眠不足、情報量が多いスマホ等の使い過ぎ、ワーキングメモリを多く使う様々な生活場面での意思決定だそうです。日頃、教育現場で「睡眠不足や睡眠習慣の乱れが心身の健康を阻害し、学習意欲を低下させ、思わぬミス(ヒューマンエラー)を引き起こす」と話している私にとって、腑に落ちることばかりでした。

脳の情報処理能力低下の原因
・脳機能低下につながる睡眠不足
・情報量が多いスマホ等の使い過ぎ
・ワーキングメモリを多く使う様々な生活場面での意思決定


 

睡眠時間と脳の働き

私自身もかつて睡眠時間の違い(徹夜、2~8時間睡眠)による脳の覚醒レベルを脳波で測る研究をしましたが、睡眠時間を短縮するほど、集中力が維持できず、ボーっとする時間が長くなりました。子どもたちにはTVのチコちゃんの「ボーっと生きてんじゃないよ!の時間が睡眠不足で長くなるよ」と解説しています。

ボーっとして、うっかり言い間違い、書き間違い、メールの打ち間違いでも時には勘違いされたり、トラブルになったりすることもありますが、やはり命に係わる踏み間違い、機械の操作ミス、脳のブレーキが壊れた感情的な暴言や暴力は絶対避けたいものです。


 

ルーティン化でメモリ削減

私たちは、日々脳のワーキングメモリを使って、1日に35,000回も意思決定をしているそうです。朝、起きるか二度寝するか、パンかごはんか、歩こうかタクシーにしようか、言おうか言うまいか、医者に行こうか行かないか、賛同するかしないか、枚挙にいとまがありません。

しかし、睡眠習慣、食習慣、運動習慣のように生活場面の多くをルーティンワークにして習慣化すると、自然に行動出来て約43%のワーキングメモリを削減でき、本当に集中力が必要な大切な場面で脳機能を発揮することができるようです。


 

子どもの睡眠教育とルーティン

子どもたちへの睡眠教育では、よくこんなことをお伝えします。

“毎日の生活習慣は、繰り返しているうちに脳の神経回路にインプットされて、だんだん自然にできるようになります。
たとえば、決まった時間に寝たり起きたり、食事をしたり、体を動かしたり、思いやりのコミュニケーションができるようになります。
でも、毎日の生活リズムがバラバラだと、ひとつひとつの行動にたくさんのエネルギーを使うようになり、だんだんやる気・意欲が失われてしまいます。
その結果、生活がうまく続かなくなってしまうこともあります。
だから、生活リズムをととのえることが、元気にすごすための大事な土台なんです。”

肝心なところで重大なミスを起こさないように、まずはしっかり良い睡眠を確保して、脳のワーキングメモリをしっかり働かせ、理性的な判断力を発揮して、学生さんたちなら種々の試験もクリアしたいものですね。

パフォーマンスを維持するために

スマートフォン・ゲーム機・パソコン・テレビ等に多くの時間を費やしすぎるのは、脳のワーキングメモリを消耗するので、今やどの世代にも心配な課題となってきました。

特にスマートフォンは手軽で身近な分、ついつい一日中使っているという方も多いのではないでしょうか。
そんな時は、お手持ちのスマートフォンに備わった機能を使ってみるのも良いかもしれません。iOSのiPhoneやiPadでは「スクリーンタイム」、Androidでは「Digital Wellbeing」という項目を設定アプリから探してみましょう。

スマートフォンやゲーム機に限らず、就寝前の光や交感神経を刺激するようなコンテンツの視聴(楽しい!興奮!)はワーキングメモリの消耗だけでなく、睡眠を阻害することにもつながります。健康と脳のためにも、夕飯を食べたあとの過ごし方は工夫したいものですね。


 

私たちの脳やからだもスマートフォンと同様に、ずっと使いっぱなしだと電池切れになってしまったり、動作が重くなってしまいます。時にはデジタルから離れ、夜はしっかりと眠ることで私たちが本来もっているパフォーマンスを十分に発揮していきましょう。

脳とすいみんはともだち

今月ようやく「脳とすいみんはともだち」というボードゲームが完成しました。スマホゲームとは異なり、サイコロの目に沿って進むアナログでシンプルなボードゲームは、仲間とコミュニケーションをとりながら脳をリフレッシュし、元気にしてくれます。学校やご家庭で使ってみたいという方はお気軽にエムールまでお問い合わせください。


 

今日から実践できる睡眠改善方法

睡眠教育を実施してみようという教育者の方、保護者の皆様、企業内の人事や健康管理を担当されている方、ぜひ下記のURLから「睡眠を改善する生活習慣15項目」に答えてみて参考にしてください。
昨年までの睡眠研究で、この15項目から3つを選んで2週間チャレンジして下さると、61%の方で睡眠が改善したという結果になりました。残りの39%に入りそうな方はもうあと2項目を加えてみて下さい。

 

睡眠の質を改善するための生活習慣改善の取り組みアンケート

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すいみん・かるた

家族や職場で睡眠を改善したい方のために「すいみん・かるた」(dreams come true=良い眠りは人生の夢を実現する)を作成しました。お子様との学びの場でぜひご活用ください。大人にとっても学びのある内容になっています。

 

すいみん・かるたの詳細

 

睡眠環境と習慣を学びたい方におすすめ

【PR】睡眠環境と睡眠習慣を体系的に学びたい方、知識はあってもなかなか実践できないという方には、エムール睡眠・生活研究所(所長:神川康子)と通信教育のユーキャンが共同開発した『睡眠セルフマネジメント講座』がおすすめです。テキストで睡眠のしくみや、睡眠の質を高める実践法などの知識を身につけながら、副教材やアプリで睡眠のくせを見える化!2つの学習を進めていくことで資格取得と快眠習慣の定着、両方を目指せます。

睡眠セルフマネジメント講座の詳細

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いずれもリンクフリーです。ぜひ睡眠教育の実践にお役立ていただければと存じます。

エムール体験ショールームについて

マットレスやベッド、高座椅子・リクライニングチェア等の製品を体験できるインテリアショールームです。予約制で最大1時間、専門スタッフがお客様の心地よい体験をサポートしてくれます。

立川店にはトップアスリートが練習帰りに立ち寄られ、2024年にオープンした南青山店にはタレントの方もお越しになるそうです。最近では、私のいる富山県と東京都を繋ぐ北陸新幹線とコラボした椅子が体験できると、若い世代の方も訪れるきっかけになったようです。休息姿勢は年を追うごとに痛みや健康課題が大きくなっていきますので、若い世代が姿勢に注目することはとても良いことだと思います。「売らないショールーム」ということで寝る、座るの姿勢と体験を重視した運営をしていますので、皆さんも一度訪れてみてはいかがでしょうか。


 

エムール体験ショールームの詳細

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執筆者/監修
Author

神川 康子

富山大学 名誉教授 博士(学術) 。一般社団法人日本睡眠改善協議会理事。日本眠育協議会理事。富山県公安委員会委員。富山県社会福祉協議会理事。40年以上に渡り、睡眠研究を行う。年間50回を超える講演を通して、睡眠教育の啓発に尽力。睡眠環境学入門ほか寄稿多数。